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小泉今日子『小泉今日子書評集』(中央公論新社) その本を読みたくなるような書評を目指して十年間、たくさんの本に出会った。読み返すとその時々の悩みや不安や関心を露呈してしまっているようで少し恥ずかしい。でも、生きることは恥ずかしいことなのだ。…
『Winny』 社会的な問題、警察組織の問題等がさまざま絡み合うように構成されてはいるが、軟弱な私はただ、金子勇という魅力的な人がいたことの記録の映画と思いたい。数々の遺品を映画に登場させること。当時の時代のPC環境や画面表示の再現。さらに遡って…
吉本隆明『吉本隆明拾遺講演集 地獄と人間』(ボーダーインク) [……]僕らも、近親者をいくたびか見送ったことがありますけど、答えられないんですよ。兄貴の長女が子宮癌で亡くなりましたけど、そのときもそばにいて、「叔父さん、どうかんがえたらいいの…
ローザ・ルクセンブルク;大島かおり編訳『獄中からの手紙 ゾフィー・リープクネヒトへ』(みすず書房) 昨夜、九時ごろのこと、また一つすばらしい光景を見ましたよ。ソファーに座っていると、窓ガラスにバラ色の反射光がきらめいているのに気がつきました…
シェリー;小林章夫訳『フランケンシュタイン』(光文社古典新訳文庫) 「(……)おまえがまだ生きていて、おれに対する復讐の気持ちを抱き続けていれば、おれが死ぬより、生きている方が心は満たされたはずだ。だが現実はそうではなかった。おまえはおれを消…
長谷川宏著『幸福とは何か ソクラテスからアラン、ラッセルまで』(中公新書) 序章にあらわれる、幸福についての導入のための言説の一々に疑いを抱かずにいられなくて。それでも本論に入ればどうにかなるかと思っていたが、序章における著者の見解に軸足を…
岡本太郎『迷宮の人生』(アートン) 昨年の終わり頃からダダ・シュルレアリスム関連の本をいくつか読んできた流れで、最近は岡本太郎についてぼつぼつ読んでいる。 私は生きている瞬間瞬間、迷宮のなかをくぐり抜けている思いだ。 目の前が突然明るくひろが…
今村夏子『こちらあみ子』(ちくま文庫) 愚直だ、一途だ、という言葉であみ子を賛美する向きもあるようだが、こういうのは物心が付いていないと言い表すべきものだと思う。だからまた、あみ子に憧れるというのも筋違いだ。ただ各自の過去を見つめさえすれば…
眉村卓『なぞの転校生』(講談社文庫) 舞台が大阪なのに、主人公の通う学校の名前が「阿南中学」というので、大阪が徳島を併呑した時代の近未来SFだ!と思ってみたりもしたのだが、主人公が「阿倍野団地」に住んでいるという記述がのちに出てきたところをみ…
古橋秀之『冬の巨人』(富士見L文庫) 新しく生まれた巨人の軽快さ、漲るばかりの快活さは、半ば滑稽なようであり、またそれがために神性を感じさせもする。神話の側の出来事を、神話に類するものを、読んだのだという印象を齎す。ミール(巨人/世界)にお…
吉本隆明『悲劇の解読』(ちくま学芸文庫) 何年掛かりで読んでるんだか、この度は、横光利一の章を読んだ。 「巴里にはリリシズムといふものが、どこにもない。」という感想の判らなさについても、望みうる最上の人物といえる岡本太郎が「旅愁の人」で言及…
原爆の日に 5月3日、旧日本銀行広島支店で開催されていた「調べて描くアニメーション映画『この世界の片隅に』の世界展」と片渕監督トークイベントに参加しました。 展示の中に、子供のすずさんが歩いただろう(と調べた結果考えられる)、商店の並んだ通…
中原中也「高橋新吉論」 最近、高橋新吉について調べることが面白くて仕方がない。自らの無知や考え及ばなさのため、他の人からすれば常識のようなちょっとした事でも、知れると大発見のようにうれしい。初学者の楽しみを味わっている。 さて、中原中也は、…
早見裕司『小説モルダイバー』(アニメージュ文庫) 今、皆さんがこの小説を読んでいるのは1990年代のいつかだと思うのだが(まさか21世紀までのロングセラーになってはいないだろう)、つい先日、作者は知り合いの高校生からおそるべき話を聞いた。 (p.89…
立川談志著『現代落語論 笑わないでください』(三一新書) 立川談志が死んだとき、毒蝮三太夫とヨネスケがワイドショーに呼ばれて故人にまつわる思い出話をした、そこでヨネスケが学生時代のバイブルだったと語っていたのがこの本で、それを見てさっそく読…
松谷みよ子『松谷みよ子童話集』(ハルキ文庫) 冷たい、ひんやりした風がふき、おゆうさんは、はっと目をさましました。そして、白い霧の中に起きなおりました。チュッ、チュッ、すずめの声がします。ふりかえると、お地蔵さまのれんげの台の上に、三羽のす…
田辺聖子『舞え舞え蝸牛 新・落窪物語』(文春文庫) ここにも一人のみなもちゃんがいるよと教えられたので読みました。みなもちゃんって、伊吹みなもちゃん。 「でも世間には、ちょいちょい、あるんでしょ。親の知らぬうちに、美しい公達が、姫君を盗みにく…
ダイアナ・コールス作;ロス・アスクィス絵;グループ ウィメンズ・プレイス訳;横浜女性フォーラム監修『アリーテ姫の冒険』(学陽書房) (……)でも、自分の娘を宝石とひきかえに、ボックスに売りわたした父親のことは、けっして許そうとしませんでした。 …
茨木のり子『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書) 透明な過去の駅で 遺失物係の前に立つたら 僕は余計に悲しくなつてしまつた (谷川俊太郎「かなしみ」) 本書でまず紹介されるのが谷川俊太郎の「かなしみ」で、この詩について茨木のり子は「この詩のな…
大倉らいた『センチメンタルグラフティ〜約束』(角川スニーカー文庫) 読書メーターの著者グラフが、普通にやってると漫画家の名前で埋め尽くされてしまったので、これではいかんと奮起して、最近もっぱら大倉らいた作品ばかり読んでいます。5冊まで読んで…
大山のぶ代『ぼく、ドラえもんでした。涙と笑いの26年うちあけ話』(小学館) いまはむかし、いわゆる『新ドラ』のドラえもん役が水田わさびに決まったとき、「その手があったか!」と膝を打ち、その瞬間から彼女を応援している私です。と同時に、『旧ドラ』…
デカルト;小場瀬卓三訳『方法序説』(角川ソフィア文庫) 岩波文庫の落合太郎訳のは読んだことがあるのだけれど、せっかく灰村キヨタカのカバー絵なので、新たに買って読みました。といっても『とある魔術の禁書目録』とかよく知らないんですがね! かつて…
J・ウェブスター作;谷川俊太郎訳;長新太画『あしながおじさん』(フォア文庫) ウェブスター『あしながおじさん』(河出書房新社 他) - 読書猿 第1号 読書猿の初端にとりあげられているのが『あしながおじさん』で、そこで引用されていたのが谷川俊太郎…
野村美月『半熟作家と“文学少女”な編集者(ミューズ)』(ファミ通文庫) 本編8冊、外伝3冊、短編集4冊、そしてこの最終巻で合計16冊にも及ぶシリーズがとうとう完結した。第1巻が太宰でさえなければこうして最終巻まで付き合うことにはならなかったろう…
東京旅行 巷間でその存在がまことしやかに囁かれている大型連休とは全く関係なく、4/16〜17の二日間東京に行ってきた。新国立劇場で『ゴドーを待ちながら』を観るのがメインの目的で、せっかくだからそれに合わせて首藤剛志を偲んで渋谷散策もやっちゃおう、…
その他のバース 先日のかのんちゃんの『Birth』つながりってわけではないけど、首藤剛志文;金田伊功イラスト『バース または 子どもの遊び』(講談社X文庫)を読み、でもってアニメの『BIRTH』を十数年ぶりに見る。 まったく、このわけのわからん、ラサの尻…
数学関連2冊 結城浩『数学ガール 乱択アルゴリズム』(ソフトバンククリエイティブ)は、アルゴリズムの速さを数学的に評価するためには、定規や秤のようなあらかじめ用意された数式があってそれにアルゴリズムを代入すれば済むというわけにはいかなくて、…
岡真理『記憶/物語』(岩波書店) 記憶は分有されなければならないとか記憶が分有されうる可能性とかそんな、思ったこともないようなことがテーマになっていて、どういう結論に行き着くのか非常に興味を持って読んでいたら、終章(第3章)に愕然とした。こ…
上遠野作品4冊読んだ 電撃文庫作品だけでも何とか追いつこうと奮起して、上遠野浩平『ヴァルプルギスの後悔 Fire1.〜3.』『ブギーポップ・ダークリー 化け猫とめまいのスキャット』(電撃文庫)を読み終わりました。他のレーベルや単行本が10冊くらい溜まっ…
樺薫『ぐいぐいジョーはもういない』(講談社BOX) 『藤井寺さんと平野くん』を気に入ってデビュー作の『めいたん』を買ったのが積んだままになっていたのですが、このたび講談社BOXから新刊が出たというのであわてて『めいたん』を読み、カレーを食べ、そう…