女の子たちの諸事情

Kanon

 当時それほど熱心なプレイヤーではなかったし当時も今も人の日記とか議論とかを追いかけるほどの気力がないので、「Kanon問題」という言葉を知ったのもついこの間、twitterで否が応でも見せつけられてというようなことになるのですが、似たようなことを考えなくもなかった私ですから、世間で言われている文脈、世間の関心にそぐっているかはともかく全く個人的な話としてちょっと書いておきたいと思います。
 沢渡真琴というキャラクターがいます。あるきっかけで彼女は主人公の居候している家に居候しはじめます。「あるきっかけ」って勿体ぶった言い方ですが何のことはない私が覚えてないだけです。で、居候とそのまた居候として、肉まんを与えたりもらったり、マンガを読みに部屋に来たり、なんかそんな関係が出来上がっていくのだったと思います。
 そうこうしながら何日か経ったとき、気づけば真琴がいなくなっていました。もちろん、ほかのキャラクターのルートに入ったからなのですが、そんなことが分かるのはプレイヤーである限りにおいての私ですし、それもプレイ後になってはじめて分かることです。主人公にはルートなどという概念はありません。そこで、居候仲間が失踪(?)したのだから、さしあたり心配したり不審に思ったりといったような反応を、当たり前のものとして主人公に期待できそうなものだと思って読み進めて行きました。ところが、主人公の反応はおろか、真琴がいなくなったことについての描写自体が全くなかったと記憶しています。(あるいは殆どなかったと。ここで、「全く」と「殆ど」では事態の様相がはっきり異なってきますから、この点を正確に記憶していない以上、私には実はもう有効な何事をも語りえません。ですから、語りえない私なのだということを認めていただいたうえでこの先は読んでください。)
 このとき「あれ?」と思ったのは間違いありません。不自然に思ったと言えばいいのか、違和感を覚えたと言えばいいのか、主人公との齟齬/距離/断絶を感じたと言うのか、プレイヤーの側に引き戻され取り残され疎外された自分がそこにいたのか、と並べていくうちにオーバーな表現に我から恥ずかしくなってしまいましたが、じっさいそこまで深刻な何か感覚に襲われたわけではなくて、だから最初の「あれ?」というのがやはり一番しっくりきます。
 真琴以外のキャラクター(といって私の場合それがどのキャラクターだったのか、これもまた忘却の彼方ですが)のルートを単体のストーリーとして見たときに、居候したかと思えばいつのまにかいなくなる真琴というキャラクターの存在はなんだったのか、これが疑問の在処なのだと思います。
 もちろんこの場合、結果的には、居候する真琴は全く不要の存在です。しかし、分岐以前の段階においては真琴が不要になるかどうかは決定していませんから、はじめから登場しないわけにもいきません。
「真琴がいなくなったことについての描写自体が全くなかった」という、当初不備であるかのように思われた事情が、かえってひじょうに重要なはたらきを担っているのだと考えてみてはどうでしょうか。すなわち、描写すらなく退場する真琴という現象は、「真琴はこのさいいなかったものとして扱え」というゲーム側の無言の要請として理解するのが妥当なのではないかと。そうしてみれば、一見問題と思われたものは、そのじつ問題の解決だったのだと言えそうです。
 私も友人に「どこかに去ったまま救われない真琴がいる! 彼女は狐だったんだ! だのに!」などとあえて声高に叫んでみたこともありましたが、もちろん冗談としてです。みんなも、笑ってほしくて言っている(た)んだと思います。
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 以上、思い出すまま思いつくままここまで書いてみましたが、最初にもお断りしたように、いわゆる「Kanon問題」にまつわるこれまでのやりとりについて全く知りませんし、そもそも「Kanon問題」という言葉がどのような事象を指して使われているのかさえ理解が怪しい状態ですから、的外れなことばかりと思います。ねがわくは、一部で話題のタームに言及したことでアクセス数が増えるのではないかと怯えるあまり箸も持てなくなりそうな私をどうかそっとしておいてください。彼はもう十分に罰を受けたんです。