『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
何が神であるか。
radio guys(ラジオのDJ)に自分の歌を聴いて欲しくて、イヴはデモテープを作る。そのレーベルには "God Help the Girl" の文字が記されている。だから、まずは彼らが、イヴに救いをもたらす神であることが期待される。
また、ジェームズ、キャシーとの会話の中で、音楽の神、ということに話題が及ぶ。ジェームズの曰く、一曲でも人々の心に残り歴史に残る名曲を作ることができれば、神なのだ、云々。それに答えてイヴは、たったそれだけなの、簡単ね、とかなんとか軽口を叩く。
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映画の終盤、思い悩んだイヴは、セラピストの元を訪れる。これから施すセラピーはキリスト教式だと言うセラピストに、信仰がなくても効くかしらとイヴは応じる。それでも、マッサージを受けながら、よくなりたい、よくなりたい、と繰り返し一心に思ううち、これは祈りなのだとイヴは気付く。
"God Help the Girl" とは、確かに祈りだ。ところでイヴは神を信じない。ために、ここに至って "God" は、形式的で虚ろな言葉へと後退する。ここに至って、などということはない、はじめから虚ろだったのだ。
そこで、代わりに表れ、イヴに意識された「よくなりたい」という祈りは、あてどがない。自らに返って来るしかない祈りだ。そうしてイヴは、ロンドン行きを決意する。ともあれ前に進むために。自身を救うために。
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ラストライブ前、流れるラジオの音声によって、DJの元に "God Help the Girl" のデモテープが到着したことが明かされる。彼らはテープを聴けなかったし、イヴたちのライブにも残念ながら行けないと言う。しかしそれでも、何かよい兆し、祝福のように、彼らの声は響く。
少なくとも、祈りはここに、届きはしたのだ。