都築杢之進の消失

『斬、』

 人を斬ることが出来ない、女を抱くことが出来ない、江戸への出立の日に熱を出して倒れる。どこまでも手前に留まる、留まってしまう者としての杢之進。

 であればこそ、市助たちの敵討ちに立ち上がろうとしないことを罵るゆうの声は、杢之進の鼓膜を震わしうる。

 また必然、澤村と殺し合い、人斬りをしとげたその瞬間、杢之進とゆうとの間には、間ということさえ言えないほどの絶対の隔たりが生まれる。決定的な一歩を向こう側へと踏み越えてしまった杢之進の、行くべきは、スクリーン奥しかない。ゆうのわななきは、どこまで響き渡っても、もはや永遠に届きようがない。