マジック・キャッスル

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

 まず何より、三階建てで横にやたら長いモーテルの建物の存在感。子供の足で端から端まで走るところを長回しで追うことで、余計にその長さは強調される。
 この建物に架かる虹の映えること。
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 モーテルの支配人のボビーは、いたずら盛りの子供たちとしばしば対立する。かといって互いが互いを全く邪魔にしているわけではない。しばしば対立することのうちに共存している、とでもいうか。
「アウトだ。一回で追い出すと言った」と、食べているアイスを床に垂らした子供たちをロビーから追い出す場面がある。これは、裏を返せば、一回垂らすまでは居ていいと約束を交わしたということでもある。どうせ垂らすに決まってるから、それを機に追い出せばいいと考えて約束したのかも知れない。安モーテルの住人と長年付き合い、そこで秩序を司ってきた者の知恵。ともあれボビーは子供たちを、頭ごなしにあしらうことはしない。
 子供たちの方でも、例えばかくれんぼの道具立てにボビーを使おうとしたりして、口喧しいボビーには寄り付かないようにしようなどということはない。人を疎んじるなど思いもしない、子供ならではの万能感のためでもあろうし、ボビーがじっさい悪人ではないことを、子供たちは当然分かっているのでもあろうし。
 そんなこんなで、映画が進行するにつれ、我々にもボビーの顔がどんどん懐かしく感じられてくる。