叶わぬ非望

PSYCHO-PASS Sinners of the System』Case.3「恩讐の彼方に__」

 敵討ちのため、戦う術を狡噛に付いて学ぶテンジンは、父の遺品の中から見つけていた日本語の本の読み方も同時に教わることになる。その本が『恩讐の彼方に』(菊池寛)だった。

 短編ながらも、慣れない日本語。一文読み、二文読んでは、難しいところを狡噛に尋ね、何日も掛けてゆっくりゆっくり読み進めていく。そうしながらテンジンは、この本を父が遺したことの意味を考える。読み解きがたい本を読む、まさにそのスピードで。

 ある夜、テンジンはこのことについて狡噛に問うてみる。狡噛は言う。偶然のようにみえることでも、そこに意味があると感じられるなら、それは運命と呼んでもいいのではないか。

 ふとしたことでテンジンは、ついに家族の敵を見つけ出す。忍び持っていた銃を仇敵に向けて構えるテンジン。その胸中には、これまで抱えてきたさまざまの思いがよぎる。憎い憎い家族の敵を、これでやっと討てるんだ。そう思ったとき、敵討ちの最大の好機に、しかし一片の迷いが生じる。父の遺した『恩讐の彼方に』が、その意味の謎が、テンジンをためらわせる。

 お父さん、どうして。

 とうとう引き金を引けなかったテンジン。遺品の謎は、明かされないことで、娘を復讐者にしない役割を果たした。けれど、テンジンの問いはこれからも終わらないだろう。

 死者に対してできるのは、問いかけ続けることだけだ。