青春の価値、あるいはふわふわ時間

『響け♪ ユーフォニアム』、続・田中あすか先輩のこと

 いつもは飄々としているあすか先輩、久美子には「仮面」という言葉で語られる、掴みどころのないあすか先輩が、府大会の本番前、久美子にそっと湿っぽいことを言う。

あすか「なんか、ちょっと淋しくない? あんなに楽しかった時間が、終わっちゃうんだよ? ずっとこのまま夏が続けばいいのに」
(#13(終)「さよならコンクール」)

 青春の、今この日々の貴重さを、痛切に分かっていればこそ、こうと定めたくない気持ちが、自分から何かを限ることをしたくない気持ちが、あすか先輩の中で働くのではないか。
 香織か麗奈か、どっちがソロを吹こうが心の底からどうでもいい、と久美子に真顔で打ち明けるとき、なんだっていいんだ、楽しくありさえすれば、というのらりくらりとした姿勢の裏に、決定から逃れたい、決定なんかに関わりたくない、そんな強固な思いが隠れている気がしてならない。
 思えば、吹奏楽部の今年の目標を決めるよう滝先生に促されたときだって、私書記するから、多数決で決めよう、といって自分が意見を主張しないで済むように、自ら仕向けたあすか先輩だ。

久美子「何言ってるんですか、今日が最後じゃないですよ。私たちは全国に行くんですから」
あすか「……そうだったね。そういえば、それが目標だった」
(同)

 全国という目標を失念していた、というよりは、目標なんか持ったつもりがない人の、これは口振りではないか。