ミクロの一勇士

『グッバイ、サマー』

 旅の終わり、後ろ向きに飛ぶ旅客機について。
 あのような不思議さを通過しなければ戻れないような旅だった。ともかくはそう思える。
 パリへ帰ることは、今や後退することでしかないのだ、このイメージは成長の結果なのだ、とは考えたくない。
 この夏を終えてダニエルは、それまで思いを寄せていた同級生を振り返ることをしなくなる。それはもちろん、ある部分における変化だ。しかし私は確信するのだが、時に不安で寝付かれず、身体をゆさゆささせる夜は、これからもダニエルに訪れるだろう。
 だから言うとすれば、容易には抜け出せない、置き去りに出来ない状況の引力が、ダニエルに働いた。そういうことではないか。
 旅客機から電車に乗り換えたあと、この電車も後ろ向きに進んでる、と言うダニエル。それを聞いて、向かいに座っていたテオは、ダニエルと席を交替する。
 前進も後退も、成長も馴化も、言い切れないところで生きているのだし、生きていくのだし。
"MICROBE et GASOIL" を『グッバイ、サマー』なんていう邦題にするからややこしいのだ。何ともグッバイなんかしちゃいない。