「まあ、失礼ね。あたし、いま英雄的精神について話してたのよ。」

吉野源三郎君たちはどう生きるか』(岩波文庫

 青版なのに小説なので驚いた。浦川君(豆腐屋)が立派に過ぎる。おじさんもやたら肩を持つし。
 おじさんに、コペル君は消費家で何も生産ということをしないでいるが、君にも生み出せるものがあるから考えてごらん、と言われて、コペル君の答えが、

 しかし、僕は、いい人間になることは出来ます。自分がいい人間になって、いい人間を一人この世に生み出すことは、僕にでも出来るのです。そして、そのつもりにさえなれば、これ以上のものを生み出せる人間にだって、なれると思います。
(p.297)

 生意気な。でも生意気といったらかつこさん(水谷君のお姉さん・ブルジョワ)で、併録された「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」の中で丸山真男も、「私に、何をいうかこのなまいきな小娘が、という印象を与えたことは否めません」と言っている。「否めません」という言葉と印象内容との温度差が可笑しい。