「過去は断ち切らねばならない」

岡真理『記憶/物語』(岩波書店

 記憶は分有されなければならないとか記憶が分有されうる可能性とかそんな、思ったこともないようなことがテーマになっていて、どういう結論に行き着くのか非常に興味を持って読んでいたら、終章(第3章)に愕然とした。このような抒情的で安易なところにだけは陥ってはならないというのが第2章までの流れじゃなかったのか。それともなにか読み違えてたのだろうか。そう思ってみればはじめから自己陶酔に付きあわされていただけのような気もする。
「人がなにごとかを「思い出す」と言うとき,「人が」思い出すのではない,記憶の方が人に到来するのだ」(p.4)とか「人間が〈出来事〉を領有するのではなく,〈出来事〉が人間を領有する」(p.112)とか言える著者が、記憶の分有を可能とするべく人間が主体的に「難民的生」を生きることができると単純に思ってしまえるというのは、ちょっと信じられない。つまり、易きについてしまったんだと思う。