遅れてきた読書家

J・ウェブスター作;谷川俊太郎訳;長新太画『あしながおじさん』(フォア文庫

ウェブスター『あしながおじさん』(河出書房新社 他) - 読書猿 第1号
 読書猿の初端にとりあげられているのが『あしながおじさん』で、そこで引用されていたのが谷川俊太郎訳だったので、それで読むならフォア文庫版にしようと決めていたのでした。だから決めたのは10年くらい前のような気がします。読んだのは今日です。何も質問はありませんね?

 古典といえば、ハムレットを読んだことある? もしまだなら、すぐ読むこと。完全無比なけっさく。シェークスピアのことはさんざ聞かされていたけれど、ほんとにこんなにみごとなものとは思ってもみなかったんです。いつも評判だおれなんじゃないかとうたがっていました。
(『あしながおじさん』p.114)

 ジュディより何歳も遅れてハムレットを読んだ私ですから、なおさらに遅れてきた読書家ということになるのですが、「ハムレット」を「人間失格」に、「シェークスピア」を「太宰治」にそれぞれ置き換えれば、彼女と同じ年頃の私がたちどころに浮かび上がってきます。宛先がないために書かれることのなかった私の手紙そのものと言っていい。

 まったくほんとにおじさま、みょうな感じ! ジョン・グリーア孤児院の理事さんみたいな、おなさけぶかい気持ちになりました。お菓子でべとべとのひとりのかわいい男の子にキスしてあげました――だけどだれのことも、頭をなでたりはしなかったつもり。
(同p.103)

 あすは今月の第一水曜日――ジョン・グリーア孤児院では、いやな日です。五時になって、あなたがたが孤児たちの頭をなでて、かえってしまうと、どんなにみんなほっとするでしょう!
(同pp.223-224)

 いったい頭を撫でられることを嫌いでない子供がいるものかどうか。ところがそんな幼少期の自分の気持を忘れてか、大人はとかく子供の頭を撫でにかかります。ジュディはそんなことは努めてしません。「あっぱれな個性」(p.225)です。