ロンブロゾー

眉村卓なぞの転校生』(講談社文庫)

 舞台が大阪なのに、主人公の通う学校の名前が「阿南中学」というので、大阪が徳島を併呑した時代の近未来SFだ!と思ってみたりもしたのだが、主人公が「阿倍野団地」に住んでいるという記述がのちに出てきたところをみると、阿倍野の南部にあるから阿南中学、というネーミングであるらしい。

「ぼくはもう、これで何回も何回もいろいろな世界をめぐってきた。でも、もういやだ。もうたくさんだ! ぼくにやっと友人ができたというのに……また……」
 典夫は天を仰いだ。
「こんなことってあるものか……こんな……これで何年も何年も」
(p.138)

 次元放浪民たちにまつわる謎の話であると同時に、であるより切実に、これは、寓話でさえない、転校生の話でもある。そこのところの感触の卑近さ、実感の容易さが、ジュヴナイルの読み手である子供たちに素直に受け止められる素地となっているように思える。