「ぼくだって わかっているんだ!」

藤子不二雄(A)『夢トンネル』(藤子不二雄(A)デジタルセレクション/小学館

 先日、(城端〜)高岡〜氷見へ行き、(『true tears』の聖地と)藤子不二雄の故郷を訪ね歩いてきたので、(A)先生の漫画をぼつぼつ読んでいる。
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 過去の世界で出会った少女・ナツコさんは、B29の爆撃を受けて死んでしまったという。ユメオは、現在にそのことを聞かされ、夢トンネルの最後の力を使って助けに行きながら、助けられず、爆撃の猛威にみすみす逃げ帰る。失意にうち沈むユメオは、これまでもたびたび街角で見かけたナツコさんそっくりな少女を、電車の窓外に見つけ、我を忘れてナツコさんの名を呼び続ける。

「ユメオくん きみは ナツコさんのことを思ってるから 似てる人をナツコさん本人と錯覚してしまうんだ」
「そんなこといったら 夢がなくなるじゃないか! ぼくだって わかっているんだ! でも これでもう 一生ナツコさんに会えないと思うと 悲しくなっちゃって! だから ぼくは どこかにまだ夢トンネルがあって またいつかナツコさんに会えるんだ…と思いたいんだよ!」
(「いつかまた夢で」『夢トンネル』)

 現在にいるナツコさん似の少女を、実はナツコさんの血縁でした、としなかったところに(あるいは、ほかの誰であるともしなかったところに)、「夢」という題材に照らしての良さがあると感じる。身元が暴かれると、もうナツコさんと重ねあわせることができなくなる。かえってナツコさんの影を遠ざけることになる。夢には余地が必要なのだ。