良い子と、いい大人へ

会誌掲載記事の再録



良い子と、いい大人へ*1


エスパー清田の弟子     

まずは事務的なアイサツ。

 私この度、故のあってかあらでか、名前を「4gの羊肉」から「エスパー清田の弟子」に変更致しました。因みに、前の名前は某「テトラなんとか」さんから採ったもので、今度の名前は某「かんとかシーカー」というゲームに由来してます。まあ特に意味はないので、今後とも変わらずお付き合いの程を。*2

ピカチュウをピカと呼ぶのはやめましょう。

 さて、昨年12月16日に起こった、いわゆる「ポケモン事件」については皆さんご存知のことでしょう。ピカチュウが「ピカ〜ッ」とやったらTVを見ていた子供たち(と一部の大人)が「やな感じ〜」と叫んで倒れたという、あれであります。あれが起こって早半年。今では「ポケモン」は何事もなかったかのように(バッヂ集めすらなかったかのように)木曜7時に放映され、「ヤマザキ」はやっぱり「おはスタ」内でいつも通り下らなく放送されています。*3が一方では、殆どのアニメの冒頭において「テレビを見る時は云々」という目障りなテロップが出されている、という現状もあります。
 事件(という表現は好かないのだが、でもまあ事件)から半年。果たして何が解決し、何が依然問題なのか。それを一個人として知る限りにおいて考えてみようか、というのが一応の建前ではありますが、概ねテレビ東京の公式発表の紹介(引用)に尽きてしまうことでしょう。テレビ東京の公式発表については、特別番組や局のホームページなどで既に知っているという人も多いでしょうから、そんな人は読み飛ばしちゃっていいんじゃないかと、ええ。

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私は選ばれた民ではなかった。

 その夜はいつもと違った。何しろアニメを見るのもそこそこに、僕は洗い物などしていたのだから。そうして、僕はまず助かった。さて、更にその夜はいつもと違った。何しろ僕はニュースなど見ていたのだから。そうして、僕は助かったことを知った。(助かった、といってもニュースを聞いた後でビデオを見た限りでは何とか平気だった。が、生で先入観なしに見ていたらアウトだったかも知れない。だからやはり助かったと思う。でも良い子はマネして見ちゃだめ。悪い子は……見てどうなっても知らぬ。)
 ともかく当夜のニュースでまず言われたのは、アニメ「ポケットモンスター」を見ている最中に子供が倒れ、病院に運ばれるという事態が数件に及んで報告された、ということであった。その後、同様の症状が全国的に起こっていることが判ると、異例の事態であるとして、テレビ東京側は謝罪と原因究明の意を述べた。
 翌日には、症状の大小はともかく確認されるだけでも数百人に及ぶ人が病院に運ばれたことが、新聞やテレビで報道され、テレビ東京は調査班の設置と、原因究明までとりあえず次週23日の放送の中止を発表した。(これは18日のこと。ご存知のように、この放送休止は春まで続くことになる。)更に二次的被害を防ぐために、問題の放送の録画ビデオは決して見ないように、という警告もされた。その日の「少女革命ウテナ」の冒頭などに出されたのがそれだが、それでもやっぱり見る奴はいる訳で(人のことは言えないが)、そうした人たちもかくして病院送りとなったのだとさ。
 因みに、「YAT安心!宇宙旅行」の第何話かでも4人の子供が同様に病院に運ばれたとかで、NHKはそのビデオを見ないようにと放送の合間に告知していた。……今更遅いよ。

私の周りの人は誰も「おはスタ」を見てません。

 テレビ東京独自の調査班に加え、民放連、NHK、厚生省、郵政省など、実に関係ありそうな所がみんなして、この事態の解明と今後の対応に専心したようだ。なんかいい加減な言い方したけど、途中経過は殆ど発表されなかったんだからしようがない。ともかく専心したということで。
 で、だ。問題解決までは時間がかかっちゃうとして、それまでのつなぎの対策としてなされたことについて、ここでは触れてみようかと思う。
 まず、テレビ東京は「ポケモン」の当面の放送休止を決定した。ついでに年末の「ポケモン」と「64マリオスタジアム」の特番、更には「おはスタ」のポケモンクイズコーナーまで中止にした。まあ自粛というやつだけど、当初は内容にも問題があったかもなんて騒がれたから、それをも配慮した無難な(用心深すぎとも思えるが)手を打ったわけだ。
ポケモン」放送休止はいいとして、その代わりの番組をどうするのか、それがつぎに一番の興味となるところであろう。一体そんな都合よく代わりの番組なんて転がっているものだろうか。何かの再放送でもするのだろうか。そんなことを考えていると、あった。まさにうってつけの、この時のために作られたんじゃないかというアニメ、それは「学級王ヤマザキ」。「おはスタ」で5分ずつ放送され、1週間で1話完結のギャグアニメである。これはちょうどいいってんで、代わりは全会一致で決定した。(かどうかは知らない。でも同じ「コロコロコミック」のアニメであったのは都合よかったろう。)で、視聴率は前の「マスターモスキートン '○9」と足を引っ張り合って、あかほりさと○が残念がったという話があるとかないとか。でもまあ実際はそうでもなかったみたいなんだけどね。つまんないの。
 重要な対処としてもう1つ、アニメの冒頭に注意書きを出すことをした。「テレビを見る時は部屋を明るくして出来るだけ離れて見て下さいね」とかいうあれである。ただこんなに漢字は使ってないけど。最初はテレビ東京だけがこれをやってたんだけど、そのうち「夢のクレヨン王国」がやり、「るろうに剣心」がやり、でもって今ではほぼ全部のアニメで同様のテロップが出されるようになった。(ほぼって言ったのは全部のアニメを見たわけじゃないからだけど、多分もう全部のアニメでやってると思う。「サザエさん」でもやってるし。あ、衛星のには出てなかったな、そう言えば。)
 それにしてもあのテロップは邪魔だ。あれのせいで録画保存する気なくなっちゃうよ。その点「るろ剣」はいい。*4当然録画保存はしないけど。

さあ、春だ。

 巷は春一色、花見酒で上機嫌になった大学生が鴨川に飛び込むのもまた一興。そんなある日、今回の問題の検証番組が放送された。
 4月11日土曜日の午後1時に、その番組は開始した。この番組ではポケモン問題がなぜ起こったか、そして再発防止のためにどんな対策を講じるか、といったことが1時間にわたって解説された。ゲストとして、ハーディング教授とかいう人(この方面の第一人者らしい。パンチドランカー症状研究の権威、ドクターキニスキーみたいなモンか)も外国から招いていた。
 原因についてはもう知っていると思うので(それでも言っておくと赤の透過光の点滅がまずかった)、対策の方を取り上げることにしよう。対策は大きく3つ。
 まず視聴者へのテレビの見方の注意、あるいはお願い。これは次のようなものである。

  • テレビを視聴する際には、テレビから十分に離れて見る。
  • テレビを視聴する際には、部屋を明るくして見る。
  • テレビを視聴する際に不快を感じた時には、手のひらで片目にふたをしてテレビから目を離す。


 これらはテレビを見る時の基本である。でも守れない人が多いのが事実。この事件で再認識された問題の一つだと思う。(テレビを、というところがポイント。でも取りあえずそのことは置いておく。)ただ、3番目の動作がなんでいいのかわかんない。それについて説明してなかったのが残念だった。
 次にアニメ製作側の注意事項。テレビ東京がアニメの製作ガイドラインを定めたのだが、それも引用しておこう。

  1. 1/3秒(フィルムでは8コマ・テレビフレームでは10フレーム)以内で1回を超える光の点滅は避けるべきである。
  2. 急激なカットチェンジや急速に変化する映像も、光の点滅と同様の影響を与えるので、1/3秒に1回を超える使用は避けるべきである。
  3. 赤色を単色で使用した点滅やカットチェンジも危険である。ただし、単色の赤色を除く色の組み合わせで、それが同じ輝度(明るさ)であれば問題はない。
  4. 輝度差のある規則的なパターン(縞模様・渦巻き等)は、原則として避けるべきである。

* 光感受性反応の研究の権威、イギリスのハーディング教授は「テレビ自体が点滅した光を発して映像を送り出す媒体である以上、光刺激によって症状が生じるリスクを完全になくすことはできない」としている。
 これはイギリスやアメリカのガイドラインに比べても厳しいもので、これほど安全性を考えられたものは類がない、とハーディング教授は言った。だが、注にあるように全くの安全ということはないとも言った。これは、どうしようもないと言っているようにも聞こえるが、これさえ守っていればそれでいい訳ではないことを示唆しているとも言える。常に光刺激についての配慮を忘れてはならないという、作り手に対する警告である。
 そして3つ目は、問題となった光の周期的変化(フリッカーというらしい)の検出、解析装置の開発である。これを使用することによって、フリッカーの過剰使用が完全に検出され、解析できるのだそうだ。これを7月から導入するということだけど、こんな短期間によくそんな装置を作ったものだと思う。ただ名前がよろしくない。(名を「アニメチェッカー〜映像フリッカー解析装置〜」という。なるほどそのままだ。因みに(株)アドバンテスト社というところとの共同開発だそうだ。)
 以上が、この検証番組で語られた対策である。この番組は16日の朝に再放送され、そしてその夜7時、「ポケモン」は遂に帰ってきたのだ、「はれときどきぶた」を押しのけて……。

こっちで矢玉さんが見られるとは。

ポケモン」はゴールデンタイムに復活した。復活初日は何と一挙2話放送だ。ちゃんと番組前に矢玉さんの易しい解説や注意も聞いたし(矢玉さんというのはテレビ東京のアナウンサーで、「はれぶた」に出てくる矢玉アナは、当然この人がモデルである。ナベシン監督はゾッコンらしいぞ)、楽しみ楽しみ。確か次は『ルージュラのクリスマス』だったな。……あれっ、『ピカチュウのもり』? へんだなあ、記憶違いか。まあ復活後第1話目だしな、次こそは……。
 ……だが次も違った。その次も、そのまた次も、いつまで経っても『ルージュラのクリスマス』は放映されない。それどころか、それまでやってたはずのバッヂ集めさえも一向に始まらない。どうしたと言うんだ、田中真弓は泣いているぞ。(田中真弓はその回のゲストキャラ役だったらしい。母さんが出るってんで子供が楽しみにしていたんだけど、とラジオで切々と語っていた。)このまま今年のクリスマスまで話を持ち越すつもりか。うーん、十分ありそうで恐い。*5

***
文章は終わらせるのが一番難しいと思う。

 これで、若干の、いや非常に多くの私見を含みながらも、「ポケモン事件」の全貌を一応は通観することができた(と思いたい)訳ですが、果たして以上のことから私が言いたかったのは、一体何だったでしょう。……あ、ごめんなさい、石を投げないで下さい。今考えます…………はい、まとまりました。
 初めに私は、何が解決し、何が依然問題なのか、という問題提起をしました。しかしながら、テレビというメディアの性質上この問題は絶対に避けて通れず、また一件落着ということはありえません。確かに今回の事件は、テレビ業界に映像表現の持つ危険性を認識させる、1つの引き鉄となるかも知れません。でも実際はどうでしょう。アニメ番組には多少の変化が見られるものの、その他の番組や、そして何よりひどいのがコマーシャル、これらにおいては未だ危険と思われる映像表現が多く使われています。また、アニメに変化が現われていると言っても、まだ新たな規制を前に(そしてそれに伴う自主規制も含めて)どうしていいか暗中模索している、というのが製作側の現状のようです。つまり、結論を言えば、まだ何も解決してはいないのです。
 ようやく今、日本のテレビ業界(映像業界と言った方が適切か)は正しいスタートラインに仕切り直す機会を得ました。その道にどのようなゴール待っているのか、大変興味深い所です。

余計なことを付け足したがるのは貧乏人の悪い癖。

 テレビ東京はよく頑張った。アニメをいかに局の中心事と考えているか、ということを窺い知ることが出来たように思われる。ところで、テレビ東京以外で春以降この問題を取り上げている所は少ない。唯一「Newtype」7月号に1ページの記事を認めるばかりである。もっとこの問題が取り上げられる場があってもいいんじゃないか、というのがこの原稿を書こうと思った動機である。



おしまい     

*1:プレイステーションのCMコピー、「よい子とよいおとなの。」のパロディタイトルのつもりでしたが、今となっては説明しないとわかりませんね。

*2:初期のPNの話なんかどうでもいいんですけど一応補足しておくと、前年の大学祭でゲームサークルに入り浸って『マインドシーカー』をクリアしたことを受けて、このPNに変更したのでした。ちなみに私にはこのソフトを発売日に買った前歴がありましたが、当時は超能力の開発までには至りませんでした。なのでおよそ十年越しでようやく印可された、名乗るのもおこがましい程の不肖の弟子です。

*3:学級王ヤマザキ』のことはもちろん好きです。主題歌のCDだって持ってます。関係ないけど湯川専務のCDも持ってます。

*4:るろうに剣心』は、本編映像に重ねて注意事項を表示するのではなく、注意喚起用の映像を新たに用意して番組冒頭に流すという方法をとった最初のアニメだったように記憶しています。なにぶん十五年も前のことで自信はありませんが。その後、『こち亀』がこの方式の可能性をいっぺんに拡げました。「てってってっれびーをみーるとっきはー♪」です。

*5:結局、「ルージュラのクリスマス」は10月5日の1時間SP内で放送されました。