「思い出さなくてはいけないのだろう。」

読んだ本いろいろ

 ゆずはらとしゆき海野十三原作『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』(ガガガ文庫)は、設定の細部というか根幹部分がちょっと分からない怪しいところがあって、でもそんなことは問題ではないといわないばかりの力技でまとめ上がってしまっているから凄かった。7割8割方は原作どおりの内容なのになんでこんなことになりえたのかとても不思議。
 森見登美彦『きつねのはなし』(新潮社)、『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)を読んだ。『夜は〜』は何とか賞の2位だったり何とか賞を取ったりしたようだけれど、今までに出てる5冊の中では一番面白くないように思った。どうしても一刻も早く氏に賞を取らせたいという逸る気持ちがさせたことなんだろうと思うことにしている。
 ジョージ・マイアソン著;野田三貴訳『エコロジーポストモダンの終焉』(岩波書店)は「ポストモダン・ブックス」シリーズの1冊。タイトルからしてこの本が最後にシリーズを締めくくるのだとばかり思っていたら、『バルトと記号の帝国』を残して先に出てしまった。『バルト〜』の発売をずっと待ってるのに一体いつになったら出るのか。『エコ〜』はエコロジーに関わる言説はどこまでもモダン的だというような内容。そこではいわゆる「大きな物語」が極めて強固な形で復活を遂げているのだと。
 結城浩数学ガール』(ソフトバンククリエイティブ)があんまり面白いので、夜更かしして一気に読んでしまった。数学好きの眼鏡好きは必読の書。顔を近づけると眼鏡同士が触れ合いそうでハラハラドキドキですよ。それはそれ、授業で教わる数学が全てだった私の高校時代を恥ずかしく思った。プロローグに引用されている小林秀雄の言葉(「記憶するだけではいけないのだろう。思い出さなくてはいけないのだろう。」)をその後中原中也記念館でも目にするという偶然だか必然だかもあり。
 滝本竜彦原作;大岩ケンヂ漫画『NHKにようこそ! 8』(角川コミックス・エース)がついに完結。あとがきの滝本竜彦が僕らのよく知っているままの滝本竜彦で、それだけが救いのような何かだった。
 あきまん安田朗);矢立肇富野由悠季原案『ターンエーガンダム 月の風』はムーンレィスたちを見事に描き取っていると思えた。楽しいし面白いし、それから例えば21ページの「苦手な顔だ」という2コマに唸らされたりもした。
 山本ルンルン『宇宙の白鳥 3』(ポプラ社)、『ミス・ポピーシードのメルヘン横丁』(まんがタイムコミックス)と、2冊もルンルン先生の新刊が読める幸せ。『メルヘン横丁』は学校が舞台じゃないせいか、これまでの作品とはちょっと違った印象。