「あたしと正反対のマーメイド」

今月の掘り出し物

 そこそこ大きい本屋に行くと新潮文庫の「今月の掘り出し物」という台が置いてあって、新潮が売りたいと思う古典が恣意的に勝手に一度埋められそして掘り出され、陳列されている、そこでアンデルセンの童話集『人魚の姫』があったので表題作だけ立ち読みした。
 めろこ・ユイのことを思い出したもののいろいろ違った。めろこは天使になりたいなんて思いもしなかったところへ、予期せぬご褒美として天使になった。一方、人魚の姫は永遠の魂を欲しいと思っていて、それをあきらめ自らを犠牲にしたときに、かえって空気の娘の世界へ行き永遠の魂を手に入れる道を得た。あくまで道の途上として物語は閉じられるので、これはいってみれば求道の物語なのであった。
 泡と消えてまったく消えて、それでおしまいって方が華々しく劇的であろうけれど、これはこれでひとつの物語だろうとも思う。ただ、王子様を思い焦がれる気持ちと、人間の持つような永遠の魂への憧憬と、どちらがより強く姫の心を占めていたのかといえばやはり前者なんだろうと思いたい私としては、空気の娘云々のくだりはいつか王子様との日々を後方に置き去るものであるから、寂しいところではある。