「月の顔見るは忌むこと」

阪倉篤義校訂『竹取物語』(岩波文庫

「國王の仰ごとを背かば、はや殺し給ひてよかし」
(p.41「八 御門の求婚」)

 逢ことも涙にうかぶ我身には死なぬくすりも何にかはせん
(p.56「十 ふじの山(むすび)」)

 竹取の翁はとりわけて善人というわけでもないどこにでもいがちな翁なので、かぐや姫が成長すれば、なんとか立派な男に娶わせようとする。御門が位階をちらつかせれば喜びを隠さない。翁がこのような人物であればこそ、姫の孤独はついに誰にも(地上の人にも、月の人にも)理解されないままに極まって、やがて天の羽衣を羽織った姫自身の内からも霧消してしまう。はずであったところが、姫が最後に認めた手紙によって、その孤独が、御門に届く。
 一方で翁・嫗は自分たちの悲しみに嘆くばかりで畢竟姫の思いというものに思いが至らないのだから、さすが御門と言うべきで、その意味でこれは御門賛美の物語と言えなくもない。
 本当は御門も姫の心なんか分かっちゃいないのかもしれない。しれないが、二人の心が通じ合ったのだと思える余地があるだけで十分だろうと思う。
 各章の結びに置かれた気の利いたジョークが、この物語になおのこと興を添えている。滅法面白いし、構成の妙も目を瞠るばかりで、日本最古の物語文学と言って済むレベルじゃない。
 人間世界に落とされた姫の罪とは何だったのか。あるいは私たちの罪は。