郷先輩が見た夢、あるいは「ジョーすげえ」

樺薫『ぐいぐいジョーはもういない』(講談社BOX

藤井寺さんと平野くん』を気に入ってデビュー作の『めいたん』を買ったのが積んだままになっていたのですが、このたび講談社BOXから新刊が出たというのであわてて『めいたん』を読み、カレーを食べ、そうしてやっと『ぐいぐいジョーはもういない』を読みおわりました。

ぐいぐいジョー
(中略)
(2)日本女子硬式野球の名選手、城生じょう羽紅衣うぐいの通称。
 高校三年次の夏の大会、彼女は史上最も完全な投球を残して、高校球界を去る――
(『ぐいぐいジョーはもういない』 p.[6])

 タイトルも、この題辞も、「ぐいぐいジョー」こと城生羽紅衣がこの試合を最後にいなくなることをわれわれ読者に示しているが、そんなことは鶫子だって知っている。
 三年間羽紅衣とバッテリーを組んできて女房役で親友の鶫子は、それでも羽紅衣の考えることが、羽紅衣のことがわからないと言う。「が、わからないなりに、私は羽紅衣と三年間、一緒にやってきた。」(p.10)
 わからなくても一緒にやってこられたのがこの三年間なら、この、最後の試合が終わったら、一緒のものがなくなったら、二人のあいだはどうなってしまうのか。
 そんなことを思っては、どきどきしながら読みました。そうして読み終わってからもう一度題辞に目を戻したとき、何だか顔が綻びました。
 羽紅衣のことがときにわからなくて振り回されてた鶫子が、そのわからない彼女のことが好きなんだ彼女に振り回されていたいんだと気づいてしまうまでのおはなし、と言ってしまえば短絡にすぎるかと思いますが、第一章に二度ほど出てくるこの「わからない」という言葉が、ともあれ私を惹きつけました。

 一年前も、そして二年前も彼女とはこの舞台で対戦した。
 二年前は九番だった。一年前は、二番。今年は、三番。
 そうか、と鶫子は思う。
 寝屋瑠衣は、この化け物よりも一年時点での評価は高いのか。
 新時代が、恐らく始まるのだ。世代最強のエース・城生羽紅衣を擁するダスティン女学院と、世代最強の打者・古井友を擁する追田高校の二強時代ではなく、史上最強のコンプリートスラッガー・寝屋瑠衣率いる追田高校が君臨する、新時代が。
 しかし、今はまだ、今はまだ羽紅衣と古井の――自分たちの時代だ、と鶫子は思う。
 自分たちの時代を、無様な形では終えられない。
(同p.92)

 羽紅衣との最後の試合であっても、そのことばかりではないいろいろなことを試合中の鶫子は思う。この決勝はそれだけの舞台なのであり、この三年間はそれだけの三年間なのであり、高校女子硬式野球はそれだけの何かなのであり。
 途中、登場人物を覚えるために名前を書き出してみたり、夏の大会決勝のスタメン表を作ったりして、結構時間を取られましたが、数独を解いてるような予期せぬ楽しさもありました。私の読解力では学年がわからない選手が何人かいたので、誰か完全なスタメン表を解いて教えてください。