(まるで奇蹟攻撃じゃないの……!)

上遠野作品4冊読んだ

 電撃文庫作品だけでも何とか追いつこうと奮起して、上遠野浩平ヴァルプルギスの後悔 Fire1.〜3.』『ブギーポップ・ダークリー 化け猫とめまいのスキャット』(電撃文庫)を読み終わりました。他のレーベルや単行本が10冊くらい溜まってるのはどうにもなりません。
 さて、『ヴァルプルギスの後悔 Fire3.』には理解しがたい描写がいくつか出てきます。

「どこに通じているんだ?」
「海岸に接していて、キーを差したままの高速艇が係留してあるわ」
「なるほど、使えそうだな――借りていいか」
「らしくないわね。あんたなら奪い取るぐらい平気でするでしょ?」
 そう言いながら、フェイはデスクの引き出しを漁って、乗り物のキーを取り出し、朝子に投げて寄越した。
(『ヴァルプルギスの後悔 Fire3.』pp.217-218

 高速艇に差したままのはずのキーが引き出しから取り出されます。

 ビートは反射的に飛び出していった。綺も凪も、他のことすべてを放り出して、朝子が消えていったクレバスの中に、自分も頭から飛び込んでいった。
 その直後、ずずずん、という地響きが轟いた。向こう岸で巨人と魔女の戦いが激しさを増したのだった。
 すると――その衝撃で、海面の氷に揺れが生じ、ビートと朝子が消えた裂け目が戻ってしまって、ばしっ、と塞がってしまった。
 二人が浮かび上がってこられる道は、どこにも見あたらなかった。
「…………」
 その平坦な氷を、今――朝子を確かに突き飛ばした凪は、無表情に見つめている。
 そして顔を上げて、綺の方を見る。
(同p.253)

 クレバスの中に頭から飛び込んだ綺と凪が、クレバスが閉じたときには、何事もなかったように外に立っています。
 この『Fire3.』には『冥王と獣のダンス』でおなじみの奇蹟使いの萌芽的存在が登場するので、これらもいわゆる奇蹟攻撃なのだと思うことにしています。