わたしミント

今村夏子『こちらあみ子』(ちくま文庫

 愚直だ、一途だ、という言葉であみ子を賛美する向きもあるようだが、こういうのは物心が付いていないと言い表すべきものだと思う。だからまた、あみ子に憧れるというのも筋違いだ。ただ各自の過去を見つめさえすればいい。過去の自分の声を聞けばいい。求めるものはそこにあるはずだ。生まれてこのかた物心しか持ったことがありません、という種の人のことは知らない。

 友達を大切にしなくてはという思いがある。休日の度に顔を見せにやってくるさきちゃんはきっと、あみ子のことが好きなのだ。あみ子も同じように、さきちゃんのことを好きだ。(……)
(p.13)

 中学時代までを過ごした家を離れ、祖母の家で暮らすようになったあみ子は、友達を大切にしなくてはという思いを抱いて日々を生きている。あの時代を経てあみ子なりに掴んだ、これは物心の形だ。