『嵐電』
ときに思いと裏腹に、人と人とは疎遠になる。
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この映画に登場する三組の男女は、妖怪電車に出合い、いずれも突然の別れを迎える。
嵐電に現れる狐と狸の妖怪電車。それを目撃すると、大事な人と別れてしまう。そんな都市伝説があるという。しかしながら、見るかぎりではこの伝説は、事の順序を正しく伝えていないように思える。
たしかに彼らは離れ離れになる。だがそれは、大事な人であるがゆえに、だろうか。
むしろ、まず別れがある。そうして、そのことが、それまであいまいな形でしかなかった思いの中から、相手の大事さを浮かび上がらせる。離れた時間が、相手の大事であることを、胸に叫ぶ。
さらにすすんで。この都市伝説を知る者には、妖怪電車と出合うことがすでに、隣にいる存在の大事さの予感となりまた確信となる。であれば、これからたちまち来るだろう避けがたい別れへと思いは逸る。
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妖怪電車は、引き起こす別れによって、大事な人を鮮烈に生み出す。
そしてまた嵐電は、そののどやかな速さで、人と人とを繋ぎ直す。
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追いつ追われつの果て、南天が子午線に「うぬぼれろよ! あたしが好きだって言ってんだから」と口走る場面にみなぎる、中学生日記感!