シシャモかカラフトシシャモかはどっちでもよくない

『さかなのこ』

 彼女を紹介するために、ヒヨはミー坊をホテルのレストランに呼び出していた。テレビ業界で働くヒヨは、売り出し中のタレントと付き合っているのだった。

 三人での会食が進むうちに、魚博士になりたいというミー坊の夢に話題が及び、ヒヨの彼女は笑いを堪えられなくなる。

 魚博士って。いい大人なのに。

 いつまでも笑い続ける彼女にすっかり冷めてしまったヒヨは、まだ食事の途中であるにもよらず、彼女を先に帰してしまう。そうして帰してしまってから、その理由には何も触れず、二人きり、思い出話をはじめる。

 ――子供のころ、近所に変なおじさんがいたよな。道でおじさんに出会ったら、帽子を褒めて、親指を隠す。もし捕まったら、どうなるんだっけ?

 ――解剖されて、魚に改造される!

 *

 それからしばらくして、あるテレビ番組の企画を持って、ヒヨはミー坊の前に現れる。それはローカル番組で、ミー坊に、いつものように魚のことを存分に話してほしいのだという。ミー坊のことを、みんなに紹介したいのだ、とも。

 ここに至って分かるのは、先の会食は、彼女をミー坊に紹介する意味ももちろんあっただろうが、それ以上に、ミー坊をこそ紹介したいためのものだったということだ。

 自慢の、無二の、最高の、幼なじみ。

 彼女がミー坊を理解しなかったとき、かえって、世の中のたくさんの人たちみんなにミー坊を知らせたいという強い思いが、ヒヨに芽生えた。きっとそういうことなのだろう。

 *

 ヒヨの企画した番組の収録の日。いよいよという時に至ってミー坊は、あの変なおじさん、ギョギョおじさんの帽子をかぶり、ギョギョおじさんの口調を憑依させる。それは、懐かしい幼少の日の思い出、そのイメージを救うことであり、あのときから今までの自分のいっさいを救うことであって、また、それらをけして忘れないというひとつの覚悟でもある。

 あの日々は、今もともにある。