カルストンライトーン

『映画スイートプリキュア♪ とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪』

 文化の日には文化の香り高いプリキュア映画を観るしかなかったんです。
 毎回恒例ライトの使用についての注意のくだりで「ライトを持ってないみんなは、心のなかで応援してニャ」とハミィが言い添えてくれたおかげで、疎外感無くその気構えで観はじめることができました。とはいえ、今までのシリーズでも同様のフォローがあったかどうか覚えてないのですが。そろそろ来場者全員にライトを支給してくれてもいいのだよ?
 ところで、三石の発音では「ミラクルライトー」にしか聞こえなくて、「ミラクルライト」が正式名称なのにボケボケのハミィはのんびり伸ばしてしまうから「ミラクルライトー」と発音するのだとばかり思っていたのですが、「ミラクルライトーン」が正式名称だと知って、ハミィはボケボケだから語末の「ン」なんて言うのも煩わしくそれで「ミラクルライトー」と発音するのだ、と認識を改めました。
 本編は、ともかくも要所要所の小ネタが安定して冴え渡っていました。笑いの面で出来がいいというのはプリキュア映画では珍しいことですから、このことはうれしい驚きで、たとえば、敵の攻撃によって響と奏が密着した状態で両手首を拘束されてからの一連のジタバタドタバタなどは、「出るんかい!」と思わずツッコミを入れそうになるほどでした。何が出るのかはぜひ劇場でお確かめ下さい。
 かたや、エレンが披露する音吉さん経由のボケは、テレビシリーズにあいかわらず寒々しくて、それはそれで安心なのでした。
 テレビシリーズ初期にさんざん夫婦喧嘩をやりきって今や磐石の響と奏との仲を、いくら映画の都合といってももう一度違えさせることなどできはしないという配慮からか、本作では二人は終始愛し合っていたように思います。そのぶん、パパに正直になれないアコに、話の主眼は向かっていきます。といっても、さほど深いわだかまりが根差してあるわけでもなく、メフィストの一途でダメダメで立派なパパぶりを前にすれば、アコの心はわけなくパパに接近できるのでした。パパをするのは大変だ、とメフィストは作中愚痴をこぼしますが、かわいいかわいいアコはかわいいので、しがいのある大変だと思います。
 普通からいえば、父娘のヨリが戻るところにクライマックスが設定されてしかるべきところなのですが、ここから響さんの大暴走が始まります。主役は私よと言わんばかりにこれでもかと活躍します。音楽は心の内から生まれるものだから奪われたりしないのだ、というクレッシェンドトーンの決め台詞が人々の胸にまだ響いている、そのそばから「音楽を取り戻してみせる!」なんて啖呵を切ってバトルに突入する響さん。素敵です。そして二段変身です。完全に見せ場をさらってしまいます。
 こうなるともう、それまでのテーマめいたものが分散してしまう、そこまでのいい話がぶち壊しになってしまうようなのですが、ところがどうして不思議なもので、いっそ爽快に思えてきます。テーマのもとにうまくまとめようなどという考えに縛られないで、ファンサービスの二段変身を蛇足のようにでも盛り込んでしまえというのは気前がいいし、その身軽さは好ましい。なんとも変な、しかし憎めない映画です。
 アツアツなメフィストアフロディテを見るにつけ、アコがお姉ちゃんになる日はそう遠くないのではないかと思いました。