竜とそばかすのバーストリンカー

『竜とそばかすの姫』

 仮想世界〈U〉で活動する自らの分身、〈As〉。少し悩んだ末、鈴はそれを「Bell(ベル)」と名付ける。鈴だからベル。素朴な名付けだ。

 ベルがその歌声を披露して間もなく、〈U〉はベルの話題で持ちきりになる。その中で、誰からかこんな声が上がる。「ベル」の綴りは「Belle」こそふさわしい、フランス語で「美しい」という意味だ、と。

 それ以降〈U〉においては、ベルの話題は「Belle」の表記で流通する。そうして誰も「Bell」のベルを見ることをしない。〈U〉の住人たちは、彼らの見たい虚像を見るだけだ。

 現実のベルは誰だ、ベルの正体探しだと盛り上がっていても、あの有名人じゃないか、いやこの有名人だ、というばかりで、彼らが見つけられるのはどこまで行っても空しい何かだ。虚像の内側とはそんなものだ。

 その一方で、いつでも鈴その人を見ている、鈴の周りの人たちは、〈U〉にあっても易々と彼女を見つける。その理屈は描かれないが、たしかに理屈はないのだろう。

 ただ、それのみならず。チームそばかす(私なりの素朴な名付け)の皆さんは、現実の「竜」の居場所をさえも、驚くべき早さで見つけてしまう。圧倒的リアル割り能力。彼らなら、〈U〉ではなくて〈ブレイン・バースト〉の世界でも、かなりやれるのではないか。

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 ベルのファンたちが殺到して処理落ちすることで活路が開ける的なクライマックスだけは勘弁してほしいなと祈っていたら、そういう展開にはならなかったので、それだけでもう個人的には良かった。

 それにしても。あたかもパソコンがないところのように島根を描いた同じ手が、田舎の廃小学校にまでブロードなネットワークが行き渡った高知を提示してみせるというのは。細田守は今一度、島根をポジティブに扱った映画を作った方がよいと思う。