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ココロパフューム

「毎月抄」 ただし、すべてこの躰のよまれぬ時の侍るなり。朦気さして心底みだりがはしきをりは、いかによまむと案ずれども有心躰出で来ず。それをよまむよまむとしのぎ侍れば、いよいよ性骨も弱りて、無正躰事[正躰無き事]侍るなり。さらむ時は、まづ景気…

「姉さん。/僕は、貴族です。」

「斜陽」「人間失格」 全集の第9巻で残っていたこの2作を、ともに10年余ぶりに読みました。 「斜陽」を読むとき、私の関心事といっては、かず子・直治の姉弟はお互いをどう思っているのか、いたのか、そのことに尽きるわけですが皆さんはどうでしょう。 マ…

マイマイパンツと春嵐の誘惑

「18きっぷ一枚、防府まででも行けるし帰れるよ」 ということで、防府日帰り旅行してきた。先週。 まず行きの電車で高樹のぶ子『マイマイ新子』(新潮文庫)を読んで予習。清原さんちの諾子ちゃんは当然ながら出てこず。 現地では、国衙跡を最終目的地にしな…

世の中の、本統の色彩(いろ)と形状(かたち)

原田宇陀児著『新興宗教オモイデ教外伝』(全3巻/ガガガ文庫) 気がつけばオリジナルの新刊が発売されていたのであわてて、まずは『オモイデ教外伝』を読んだ。 第1巻で可能動詞が使われず助動詞「れる」「られる」ばかり多用されていたのは、著者の意図…

「あいつらに話すような悪事はないんだ」

ウィリアム・パウンドストーン著;松浦俊輔訳『天才数学者はこう賭ける:誰も語らなかった株とギャンブルの話』(青土社) なんというクロード・シャノン最強伝説。しかしそれがファンダメンタル最強とイコールというわけでもなくて、ファンダメンタルでもテ…

破天荒遊城

『劇場版遊☆戯☆王〜超融合!時空を超えた絆〜』 『なのは』も『Fate』もやってないのでひつぜん『遊戯王』を見ることになります。 大徳寺先生やファラオやユベルも時空を越えられるんだな、というかほかのキャラクターを観戦者として登場させられないからし…

「おやおや、おそれいりまめ。」

『太宰治全集 9』(ちくま文庫) 既読の「斜陽」「桜桃」「人間失格」を除いた残りを読んだ。第10巻は全集を買った最初に読んだので、これで一応全読了ということに。 この第9巻の中では、「フォスフォレッスセンス」が特にすばらしい。夢の世界が現実の続…

天然の向日性

ヴィヨン、パンドラ、その周辺 太宰治生誕100年のセンテニアルイヤーを記念し便乗して、太宰作品がさかんに映画化されている、そこで「ヴィヨンの妻」「パンドラの匣」の2作を見、前後して『太宰治全集 8』を読了した。 映画「ヴィヨンの妻」は、原作の改…

「桃太郎だけが日本一なんだぞ」

「惜別」「お伽草子」 『太宰治全集 7』読み終わり。 「惜別」は、「駆込み訴え」「右大臣実朝」あたりと読み比べてみれば示唆が得られそうな。語られる対象との距離感情によって小説の語りのスタイルも当然異なってくるので、たとえば周さんは好人物として…

アーヤお姉さん

『太宰治全集 7』(ちくま文庫) この巻は「惜別」以外は読んだことがある作品ばかりだけど、それでも一応頭から読んでまずは「津軽」を読了。 「私は虚飾を行わなかった。読者をだましはしなかった。」という作者のしめくくりの言葉に至って、この言葉を素…

美のあとにいつも私が残される

三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫) いやに理路が整っている、そしてこれは主人公の告白である、ということを考えあわせると、どれだけの時を隔ててなされた告白であるかは分からないけれども、この告白を主人公は遺書として物したのだと考えるしかないと思う…

「インコー罪?」

読書メーター 登録してみたものの求めるほどの機能もないようなので、いずれ飽きて更新しなくなるかもしれず、意味を求めなければ続けられるかも知れず。 ウエダハジメ 『化物語』#6をエンディングだけたまたま見たらウエダハジメの絵が拝めた記念に、『Q…

藝術の効能

福田恆存『藝術とは何か』(中公文庫) 藝術の効能はカタルシスなのだということが何度も書かれていた。自己とか自我とか、そういうものを求める心の反対なのだと。そういうものの無化浄化なのだと。とにかくそのことだけが書かれていた。 橋爪大三郎『はじ…

「こんないい女、めったにいないんだからね」

田中哲弥『猿駅/初恋』(早川書房) あの幻の「猿はあけぼの」が収録されてるのだぜ。 『マクロスF』 先週末から見はじめて今日見おわった。 最初の頃はアルトきゅん萌えって思ってたけど、だんだんシェリルが可愛くなってきた。 結城浩原作;日坂水柯作画…

ドリル椅子探偵レーン

悲劇四部作あるいはドルリー・レーン四部作 エラリー・クイーン読んだことがないなんてのもひどい話なので、意を決して悲劇四部作を読んだ。創元推理文庫のほう(鮎川信夫訳)。 『Zの悲劇』で生意気な小娘が出しゃばってきたときにはどうしたものかと思った…

「君にふた心」

源実朝 『吉本隆明 五十度の講演』で「実朝論」を聞きながら、右手に小林秀雄の「実朝」、左手に太宰治の「右大臣実朝」という、なんとも至福の時間を過ごしていました。 「右大臣実朝」は、やはり終盤、語り手の私と公暁とが由井浦で語らう場面が、どうした…

東京ニウモレタ先生アレバ/ツマラナイカラヤメロトイヒ

夏目漱石『こヽろ』(角川文庫)外1冊 夏目漱石『こヽろ』(角川文庫)を読んで、しかるのちに石原千秋『『こころ』大人になれなかった先生』(みすず書房)を読んだらいろいろためになった。 『こヽろ』においてひとつ重要なポイントは、東京行きの汽車の…

大気圏脱出前のロケット

穂史賀雅也『暗闇にヤギを探して』(全3巻/MF文庫J) 一人でいるってこういう時間を過ごすことなんだな、とあたしは思った。 (v.3, p.18) 3巻の風子主観の描写は秀逸。一人の時間というものについてその身をもって知っていた筈なのに、求めた以上のもの…

2008年ガンバッた

師走のいろいろ いきおい「2008年ガンバッた」なんてタイトルで始めてみたけれど(『はなまるくん』の挿入歌「2001年ガンバッた」のもじり)、思えばあまりガンバッてなかった。 このひと月の間、まだ見てなかった少し前のアニメをいくつかまとめて見た。『…

「月の顔見るは忌むこと」

阪倉篤義校訂『竹取物語』(岩波文庫) 「國王の仰ごとを背かば、はや殺し給ひてよかし」 (p.41「八 御門の求婚」) 逢ことも涙にうかぶ我身には死なぬくすりも何にかはせん (p.56「十 ふじの山(むすび)」) 竹取の翁はとりわけて善人というわけでもない…

「ほめらりるのは、うれしいにゃあ」

結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』(ソフトバンククリエイティブ) 続編が出てたのを知って買って、やはりやめるにやめられず一晩で読んでしまった。 胸ポケットに眼鏡を忍ばせていて、照れると猫口調になって、「従妹は四親等ですからね」と牽制…

「へらへらへら、わたし有名な中国の手品師、チューサン」

天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(ピュアフル文庫) ブッキング復刊版も買っていたものを、今になって文庫版で読んだ。 考えているうちに、ルミの小さい胸にあつい火のかたまりがうまれてきた。これはすごい、いのちがけの冒険だわ。よーし、がんばらなくっ…

「正義が問題なんです」

野村美月『“文学少女”と神に臨む作家(ロマンシエ)』(ファミ通文庫) 『狭き門』は私も理解しがたい作品ではあって、しかしその理解しがたさが理解しがたさのままに掬われて損なうことなく、そこにひとつの新たな主題を形成しえているように思った。あるい…

「御用の方はベルを押すですよ」

樺薫;坂口安吾原作『藤井寺さんと平野くん 熱海のこと』(ガガガ文庫) 僕らの安吾作品の跳訳が出てたなんて知らなくって、知ったら買うしかなかったものだから、買って読んで今に至っています。 「野球注釈者」という役割を自ら引き受け、同名のサイトを運…

「あたしと正反対のマーメイド」

今月の掘り出し物 そこそこ大きい本屋に行くと新潮文庫の「今月の掘り出し物」という台が置いてあって、新潮が売りたいと思う古典が恣意的に勝手に一度埋められそして掘り出され、陳列されている、そこでアンデルセンの童話集『人魚の姫』があったので表題作…

「神は死んで、人々がみな神になった」

読んだ本 みすず書房の「理想の教室」シリーズから、亀山郁夫『「悪霊」神になりたかった男』、巽孝之『「白鯨」アメリカン・スタディーズ』、荻野アンナ『ラブレーで元気になる』の3冊。『悪霊〜』は『悪霊』中の一節「告白」の読解がスリリングで、いずれ…

「見たろうな? 毒殺の場にきたときな?」

読んだ本の残り 横山紘一『十牛図入門 「新しい自分」への道』(幻冬舎新書)は、十牛図関係の本を読もうと思ったときにたまたま新刊の棚に見かけたので読んだだけのことで、自分探しをしたかったわけではない。 この間映画を見直した流れで、いとうせいこう…

歴史を尊ばない

読んだ本 ここ数ヶ月で読んだ本が両手で数えられるって話です。 吉永良正『『パンセ』数学的思考』(みすず書房)は「理想の教室」シリーズの初回配本中の1冊。読んでから大分経ったおぼろげな記憶では、「神が存在することに賭けた方がお得じゃね?」って…

「詩人の死ぬや悲し」

萩原朔太郎作;清岡卓行編『猫町 他十七篇』(岩波文庫) 独逸のある瘋癲病院で、妹に看護されながら暮して居た、晩年の寂しいニイチエが、或る日ふと空を見ながら、狂気の頭脳に追憶をたぐつて言つた。――おれも昔は、少しばかりの善い本を書いた! と。 (p…

「神を呪って死んだらよいのに」

関根正雄訳『旧約聖書 ヨブ記』(岩波文庫) これって全くヨブとヤハウェとのあいだの問題なのであって、友人とかエリフとか、はっきりお呼びでない。で、ヨブくんにはこの言葉をおくりたい。 思い出してね ホントは 愛されていることを 生まれたその日から …